執筆者:みおライズ企画 院長 大場 三緒子
「ズーノーシス」とは「人と動物の共通感染症」です。私たち獣医師は、ズーノーシスについて大学で学びます。往診の場合、患者さんの生活環境や家族形態を多く知ることができ、「ズーノーシス」、もしくは、この病気を心配している飼い主に出会います。
先日、妊婦さんから「トキソプラズマ症」について相談されました。「妊娠中は猫と接してはいけないの?うちの子と暮らせないの?」
この病気は、トキソプラズマという寄生虫の感染が問題となります。過去にトキソプラズマに感染したことが無い妊婦が感染すると、胎盤を通過し胎児に感染し、水頭症、精神運動機能障害など引き起こします。産まれた子は、一生この病気と向き合わなければなりません。
感染の原因は、非加熱の肉の生食や猫の糞中の虫体が口に入ってしまうことですが、猫が危険だから排除という安易な判断は間違っています。猫のトキソプラズマ抗体保有率、初めて感染した猫が糞便中に排出する期間(約10日間)や猫の寿命から算出すると、猫一個体から暴露する確率は約0.03%です。
出典:国立感染症研究所
必要なことは、猫を排除することではありません。「妊娠中は肉の生食をしないこと」「猫を触った後、猫のトイレを片付けたら手をしっかり洗うこと」です。「トーチの会」で検索されますと、妊婦中にユッケを食べて、感染し胎児が障害を負ってしまった方が立ち上げた患者会のサイトがあります。往診は、人と動物が安心して共存するための「知」を届ける大きな役割があると思っています。どうか知で血を守ってください。