執筆者:るぼんず 院長 野村 弓圭里
時折横切るキツネや鹿に気をつけながら牧場に入ると、馬の獣医師の先生の往診者とすれ違います。入れ替わりで私が診察するのは馬ではなく、そこにいる猫たち。
ここ北海道の日高町は馬産地で、牛馬問わずたくさんの牧場があります。そしてそこでたくさんの猫が暮らしています。猫たちは牧場で働く方々の癒しの存在でありながら、ネズミを追い払う仕事をしたり、SNSでバズってアイドルのようになったりと大忙しです。今回はそのような日高の牧場で暮らす猫たちにスポットを当ててみたいと思います。
●外暮らしの猫たちの困りごと
普段は屋外にいる猫たちにとって、寄生虫感染はよくある困りごとの一つです。猫同士でうつるシラミ、野生動物が運んでくるダニ、シラミやネズミが原因の条虫など…予防できるものではありますが、予算や耐性の心配から状況に応じて薬を処方します。その子の状態にもよりますが、年に1、2回薬を使うだけでもうまく健康を維持できているようです。
猫エイズ(FIV)にも悩まされました。比較的若い年齢で免疫不全になり、亡くなってしまう子が続きました。少しずつ不妊手術が浸透しオス同士の血を見る争いが減ったのか、検査でFIV陽性が出ることが減りましたが、FIVキャリアの子も、免疫力の低下を早めにキャッチして対処してあげることが重要と考えます。

●厳しい冬を乗り切る工夫
冬にはもちろん厳しい寒さが待っています。日高町の門別地区は太平洋側で、そこまで雪深くはないのですが、それでも飲み水は凍るし小さな体は体温が奪われてしまいます。そこで休憩室で暖を取れるようにしたり、飲み水が凍らないようにする工夫がされています。この飲み水が凍らない工夫は病気の予防としてもとても重要で、現地で診察することで私のほうが勉強になることもあります。こうして寒さ対策を取ることで数々の冬を乗り越え、18歳現役でネズミ取りができるような猫たちも存在しています。ちなみに凍傷やしもやけになってしまった猫に出会ったことはまだありません。
たとえ敷地が広かったとしても、交通事故に遭ってしまう子が一定数いるのも現実です。やはり伴侶動物である猫は室内で生活が基本ということは念頭に置きつつ、みんながみんな完全室内でというわけにいかない中でも、できるだけ彼らの健康を維持できるよう、これからも往診で手助けしていきたいと考えています。馬や牛と同様に牧場の猫にも往診という手段があることを、生産者の方々にも喜んでいただいているようです。